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大阪高等裁判所 昭和33年(ネ)634号 判決 1958年11月22日

控訴人 被告 津田嘉久

被控訴人 原告 西日本商工事業協同組合

主文

本件控訴を却下する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

職権を以て調査するに、本件控訴は、神戸地方裁判所昭和三二年(ワ)第八〇〇号約束手形金請求事件につき、昭和三十三年三月二十四日同裁判所が言渡した判決に対し、同年五月二十一日当裁判所にその申立がなされたものであつて、右判決の正本は、昭和三十三年三月二十六日控訴人である右原審の被告に対し、同被告の住所である神戸市兵庫区北逆瀬川町四二番地兵庫タクシー株式会社に送達され、同会社の事務員桝谷かすみがこれを受領していることは、右控訴状、同控訴状封入の封筒に押捺された当庁宿直受付印の日付、原判決正本送達報告書、桝谷かすみ作成の証明書、控訴人提出の上申書等によつて明らかである。

そして控訴人は、原審の訴訟手続進行中に、その従前の住所にかえて新住所を、「神戸市兵庫区北逆瀬川町四二番地兵庫タクシー株式会社内津田嘉久」とする旨の住所変更届を提出し、それから後前記判決正本送達までの間四回位、右新住所に訴訟書類の送達がなされ、その内一回は控訴人本人が自ら書類を受領しているが、他はすべて、右会社事務員である中村洋子または桝谷かすみが、これを受領していたものであることも、原審で控訴人が提出した昭和三十二年十月八日付上申書、各送達報告書等によりこれを認めるに充分である。

ところで、民事訴訟法第百七十一条にいわゆる同居者とは、通常の場合は、自然人を指称するものであるが、同条の規定が設けられた趣旨から考えると、かならずしも自然人のみに限ることなく、上叙の如く法人のもとに自然人が同居している場合の、その法人をも含むものと解するのが相当であつて、この場合、法人の雇人または事務員が、送達名宛人たる自然人への書類の交付を受けたときは、同居者に対する送達として有効なものというべきである。そうすると、本件においては、前記認定のような経緯により、原判決正本が、兵庫タクシー株式会社の事務員桝谷かすみに交付されたときに、控訴人である原審被告に、適法にその送達がなされたものと認むべきである。

控訴人は、前記桝谷かすみが原判決正本を受領した当時、出張不在中であつて、昭和三十三年五月八日これを右桝谷から受領するまで、原判決正本の送達せられたことを知らなかつたから、同判決に対する控訴期間を遵守することができなかつたとの理由を挙げて、懈怠した訴訟行為の追完を申し立てているが、かりに控訴人主張のような事実があり、それが控訴人の責に帰することができない事由に当るとしても、懈怠した訴訟行為は、その事由の止んだ後一週間内に限り、追完が許されるものであることは、民事訴訟法第百五十九条の明定するところであるのに拘らず、控訴人は昭和三十三年五月八日右判決正本を受領したことを自認し、この時原判決正本送達の事実を知つたものと認められるのに、その後一週間内に控訴申立の追完をせず、右期間経過後の同月二十一日に至り、当裁判所に控訴申立をしたものであることは、前記のとおりであるから、控訴人の右控訴の追完は許されない。

そうすると、本件控訴は不適法であつて、その欠缺は補正することができないものであるから、これを却下することにし、民事訴訟法第三百八十三条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加納実 裁判官 小石寿夫 裁判官 岡部重信)

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